
ソウルを歩くと、明洞でも弘大でも江南でも、同じような看板が何度も目に入ります。化粧品・健康食品・日用品をまとめて並べた、いわゆるドラッグストアです。ところが日本の感覚のまま入店すると、「風邪薬が置いていない」「レジで突然パスポートを求められた」と戸惑う瞬間が出てきます。韓国のドラッグストアは、日本のドラッグストアと品ぞろえの線引きそのものが違うからです。
この記事では、旅行や滞在の準備をしている方に向けて、店の種類の見分け方、薬がどこで買えるのかという制度上のルール、免税(付加価値税の還付)の条件、そして支払い手段の選び方までを、公的な根拠を確認できたものだけで整理します。確認できなかった数字は意図的に載せていません。記事末尾に、確認した出典と確認日を明記しています。
韓国のドラッグストアとは何か:日本との3つの違い
まず押さえておきたいのは、「ドラッグストア」という言葉が指すものが日韓で同じではない、という点です。韓国では、店頭にずらりと薬が並ぶ業態は基本的に存在しません。実際に店の棚を占めているのは、スキンケア、メイク、ヘアケア、健康補助食品、そして生活雑貨です。業界では「ヘルス&ビューティーストア(H&B)」と呼ばれることのほうが多く、日本語の「ドラッグストア」と訳すとずれが生じます。
| 項目 | 日本のドラッグストア | 韓国のH&Bストア | 旅行者への影響 |
|---|---|---|---|
| 一般用医薬品 | 店内で購入可能 | 取り扱いなし | 薬は薬局(약국)へ行く必要がある |
| 主力カテゴリ | 医薬品・日用品 | 化粧品・健康食品・雑貨 | コスメ目当てなら品ぞろえは厚い |
| 免税対応 | 店舗により対応 | 主要店舗で対応 | パスポート携帯が前提 |
| 価格表示 | 税込表示が中心 | 税込表示が中心 | レジで還付分が引かれる場合がある |
| 営業時間 | 店舗差が大きい | 店舗差が大きい | 公式の店舗ページで個別確認 |
上の表のうち、旅行者が最もつまずくのが1行目です。韓国では、医薬品を販売できるのは原則として薬局開設者(薬剤師)に限られると薬事法第44条第1項が定めています。つまり、化粧品店の形をした店舗に鎮痛剤や胃腸薬が置かれていないのは、品ぞろえの方針ではなく法律上の線引きだということです。この点はのちほど詳しく扱います。
店の種類をざっくり3つに分けて覚える
- H&Bストア(オリーブヤングなど):化粧品・ヘアケア・健康食品・簡単な衛生用品。観光客が「ドラッグストア」として思い浮かべる店はほぼこれです。
- 薬局(약국):緑十字の看板が目印。鎮痛剤、胃腸薬、湿布、目薬などはここ。薬剤師に症状を伝えて買う形式が基本です。
- 均一価格ショップ(ダイソーなど):コットン、ヘアゴム、旅行用小分けボトル、スリッパといった消耗品を安く揃える場所。化粧品も一部あります。
この3つを頭に入れておくだけで、「どこへ行けばいいのか分からない」という時間のロスがほぼ消えます。買いたいものを3つのどれかに振り分けてから動く、という順番です。
韓国のドラッグストア活用術7選
ここからが本題です。滞在中の買い物を効率化する具体的な手順を7つにまとめました。順番に実行できるよう、上から並べています。
1. パスポートを必ず持って入店する
免税を受けるには本人確認が要ります。「外国人観光客等に対する付加価値税及び個別消費税特例規定」第8条第1項は、免税販売者が免税物品を販売する際にパスポート等で購入者の身分を確認する手続きを定めています。宿にパスポートを置いてきた日に限って大きな買い物をしてしまう、というのはよくある失敗です。コピーではなく原本を持ち歩いてください。
2. 1回の会計を「15,000ウォン以上」にまとめる
免税対象となる物品の最低購入金額は、同特例規定施行規則第2条第1項により15,000ウォンとされています(2026年1月2日施行の改正後の金額)。細かく分けて会計すると、1回あたりがこの基準を下回って対象外になることがあります。レジに並ぶ前にかごの中身をまとめる、それだけで還付の対象になる会計が増えます。
3. 1回の会計を「100万ウォン未満」に収める
その場で税額分を引いてもらう「即時還付」には上限があります。同特例規定第6条第2項は、即時還付の条件として(1)税額相当額を含む1回の取引額が100万ウォン未満であること、(2)入国後に即時還付を受けた税額相当額を含む総取引額が500万ウォン以下であること、の2つを定めています。まとめ買いをする人は、この2つの線を意識して会計を分けると取りこぼしがありません。
| 条件 | 基準 | 根拠条文 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 最低購入金額 | 15,000ウォン | 施行規則 第2条第1項 | 1回の会計ごとに判定 |
| 即時還付の1回上限 | 100万ウォン未満 | 特例規定 第6条第2項第1号 | 税額込みの金額で判定 |
| 即時還付の滞在中合計 | 500万ウォン以下 | 特例規定 第6条第2項第2号 | 入国後の累計で判定 |
| 持ち出し期限 | 購入日から3か月以内 | 特例規定 第6条第1項第1号 | 国外へ持ち出すことが前提 |
| 本人確認 | パスポート | 特例規定 第8条第1項 | 販売時に確認が行われる |
4. 「即時還付」と「空港還付」の違いを理解しておく
還付の受け取り方は大きく2通りあります。ひとつは店頭で税額分を差し引いた価格で購入する即時還付。もうひとつは税込みで支払っておき、出国時に税関の確認を受けて還付を受ける方法です。後者について、同特例規定第10条の4は、税額込みの1回取引額が600万ウォン以下の場合に電子販売確認書を通じた還付・送金の手続きが使えることを定めています。即時還付の上限(1回100万ウォン未満)を超える買い物をした場合は、この出国時の手続きが選択肢になります。
なお、第6条第1項第1号のとおり、還付は購入した物品を購入日から3か月以内に国外へ持ち出すことが前提です。買ったその場で開封して使い切ってしまうものを大量に還付対象にするのは、制度の趣旨から外れます。
5. 薬が必要なときは最初から薬局へ向かう
前述のとおり、薬事法第44条第1項により、医薬品を販売できるのは原則として薬局開設者です。頭痛や胃もたれで困ったときにH&Bストアの棚を探し回っても見つかりません。緑の十字マークを探して薬局へ行くのが最短です。
6. 深夜はコンビニの「安全常備医薬品」を思い出す
薬局が閉まる時間帯の逃げ道として、薬事法第44条第2項第1号の2に基づき登録された販売者(コンビニなど)が、指定された安全常備医薬品を販売できる仕組みがあります。対象品目は保健福祉部告示「安全常備医薬品指定に関する告示」の別表で13品目が指定されています。種類は限られますが、解熱鎮痛・かぜ・消化・貼付剤の4系統がひととおり揃っています。
| 系統 | 指定品目(告示 別表のまま) | 品目数 |
|---|---|---|
| 解熱鎮痛 | 子供用タイレノール錠80mg(10錠)/タイレノール錠160mg(8錠)/タイレノール錠500mg(8錠)/子供タイレノール懸濁液(100mL)/子供ブルフェンシロップ(80mL) | 5 |
| かぜ | パンコールエー内服液(30mL×3本)/パンピリンティ錠(3錠) | 2 |
| 消化 | ベアゼ錠(3錠)/ドクターベアゼ錠(3錠)/フェスタルゴールド錠(6錠)/フェスタルプラス錠(6錠) | 4 |
| 貼付剤 | シンシンパスアレックス(4枚)/第一クールパップ(4枚) | 2 |
| 合計 | — | 13 |
コンビニでの買い物全般については、韓国のコンビニ活用ガイドも参考にしてください。
7. 消耗品は均一価格ショップで調達する
コットン、綿棒、ヘアゴム、小分けボトル、スリッパ。こうした消耗品をH&Bストアで買うと割高になりがちです。均一価格ショップのダイソーは、公式サイトの「お客様との約束」ページで、500ウォン・1,000ウォン・1,500ウォン・2,000ウォン・3,000ウォン・5,000ウォンの6段階の均一価格を維持すると明示しています。価格の上限が分かっているので、予算の組み立てが楽になります。
| 価格帯 | よく見つかるもの | 備考 |
|---|---|---|
| 500ウォン | 綿棒・ヘアゴム・小物フック | 最小の価格帯 |
| 1,000ウォン | コットン・スポンジ・文具 | 点数が最も多い帯 |
| 1,500ウォン | 小分けボトル・ポーチ | 旅行小物が充実 |
| 2,000ウォン | 収納ケース・タオル | 滞在が長い人向け |
| 3,000ウォン | スリッパ・キッチン小物 | 短期滞在の仮住まいに |
| 5,000ウォン | 大型収納・家電小物 | 公式の上限価格 |
オリーブヤングという選択肢を数字で見る
H&Bストアの中で最も見かける機会が多いのがオリーブヤングです。CJオリーブヤングの公式企業サイト(事業領域ページ)では、2026年10月30日時点で次の数字が公表されています。
| 指標 | 公表値 | 出典 |
|---|---|---|
| 国内店舗数 | 1,360店舗以上 | CJオリーブヤング公式 |
| 配送対象国 | 150か国以上 | CJオリーブヤング公式 |
| 会員数 | 1,800万人以上 | CJオリーブヤング公式 |
| パートナーブランド数 | 3,000社以上 | CJオリーブヤング公式 |
| アプリ月間利用者 | 1,000万人以上 | CJオリーブヤング公式 |
店舗数が1,360を超えるということは、主要な繁華街ならまず歩いて行ける距離に1店舗はある、という意味です。買い忘れたものを翌日に別の街で買い足す、という動き方ができます。具体的な買い方や商品選びについては、オリーブヤングの買い物ガイドにまとめています。
なお、観光地にある特化店舗の数や外国人来店者数といった数字も一部で紹介されていますが、公式ページ上で直接確認できなかったため、この記事では扱いません。
店内の表示を読む:韓国語の最小セット
売り場で迷う原因の多くは、商品そのものではなく棚の表示です。読めれば探す時間が短くなる語を、最小限だけ挙げておきます。発音よりも、文字の形で見分けられれば十分です。
| 韓国語 | 読み | 意味 | どこで見かけるか |
|---|---|---|---|
| 약국 | ヤックク | 薬局 | 街角の緑十字の看板 |
| 영업시간 | ヨンオプシガン | 営業時間 | 入口のドア |
| 세일 | セイル | セール | 棚のプライスカード |
| 증정 | チュンジョン | おまけ・贈呈 | まとめ買いの棚 |
| 면세 | ミョンセ | 免税 | レジ周辺の案内 |
| 여권 | ヨックォン | パスポート | 免税案内の中 |
| 환불 | ファンブル | 返金 | カウンター |
| 교환 | キョファン | 交換 | カウンター |
| 영수증 | ヨンスジュン | レシート | 会計時 |
| 포장 | ポジャン | 包装 | 会計時 |
免税の案内はレジ横に韓国語・英語・日本語・中国語が併記されていることが多く、「면세」と「여권」の2語が読めるだけでも、声をかけられる前に自分から差し出す準備ができます。会計が速く終われば、同行者を待たせることもありません。
旅行者がやりがちな失敗5つ
制度そのものより、運用の細かいところでつまずく例のほうが多いのが実情です。実際に起きやすい順に並べます。
- パスポートを宿に置いてきた:免税販売時の身分確認はパスポートで行われます(特例規定第8条第1項)。持っていない日は、その会計だけ還付の手続きに乗らないと考えてください。
- 会計を細かく分けすぎた:最低金額の15,000ウォンは1回の会計ごとの判定です。3回に分けた結果、どれも基準に届かなかった、という形がいちばんもったいない失敗です。
- 逆にまとめすぎた:1回の取引額が100万ウォン以上になると即時還付の条件(第6条第2項第1号)から外れます。土産をまとめて買う日は、途中で区切る判断が要ります。
- 累計の管理をしていなかった:即時還付は入国後の累計500万ウォン以下という条件がついています(同項第2号)。滞在が長い人ほど、後半の会計で突然対象外になりがちです。
- 薬を探して時間を使った:医薬品は薬局開設者でなければ販売できません(薬事法第44条第1項)。H&Bストアの棚をいくら見ても出てきません。
5つのうち4つは、数字を手元にメモしておくだけで避けられます。15,000・100万・500万・3か月。この4つです。
カテゴリ別・どの店に行けばいいか早見表
最後に、買いたいものから逆引きできる表を置いておきます。滞在中にスマートフォンで開き直せるよう、項目は短くしてあります。
| 買いたいもの | 行き先 | 根拠・理由 |
|---|---|---|
| スキンケア・メイク | H&Bストア | 主力カテゴリ |
| シートマスク | H&Bストア | まとめ買いの棚がある |
| ヘアケア・ボディケア | H&Bストア | 容量の選択肢が多い |
| 健康補助食品 | H&Bストア | 医薬品ではない区分 |
| 解熱鎮痛剤 | 薬局 | 薬事法第44条第1項 |
| 胃腸薬 | 薬局 | 薬事法第44条第1項 |
| 深夜の鎮痛剤・貼付剤 | コンビニ | 告示指定の13品目 |
| コットン・綿棒 | 均一価格ショップ | 500〜1,000ウォン帯 |
| 小分けボトル | 均一価格ショップ | 1,500ウォン帯 |
| スリッパ・収納 | 均一価格ショップ | 3,000〜5,000ウォン帯 |
滞在日数別・買い物の組み立て方
同じ店でも、滞在の長さによって最適な買い方は変わります。免税の上限は「入国後の累計」で判定されるため、長期滞在ほど計画が効いてきます。
| 滞在 | 優先する店 | 会計の分け方 | 意識する基準 |
|---|---|---|---|
| 2〜3日 | H&Bストア中心 | 最終日にまとめて1回 | 15,000ウォン以上 |
| 4〜7日 | H&B+均一価格ショップ | 日ごとに1回ずつ | 1回100万ウォン未満 |
| 2週間以上 | H&B+薬局+均一価格ショップ | 週ごとに分散 | 累計500万ウォン以下 |
| 1か月以上 | 生活用品は均一価格ショップ | 必要時のみ | 3か月以内の持ち出し |
買う前のチェックリスト
- パスポートの原本を持っているか
- 1回の会計が15,000ウォン以上になっているか
- 1回の会計が100万ウォン未満に収まっているか
- 入国後の即時還付の累計が500万ウォンを超えていないか
- 買ったものを3か月以内に国外へ持ち出す前提になっているか
- 薬が必要なら薬局、深夜ならコンビニの13品目を思い出せるか
支払い手段をどう選ぶか
買い物の効率は、最後に支払い方法で決まります。レジでの支払いが詰まると、せっかく組み立てた会計の分け方も崩れてしまいます。主要な手段を整理します。
| 手段 | 向いている場面 | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 現金(ウォン) | 小額の会計、均一価格ショップ | 小銭と余りが出やすい |
| 日本発行のクレジットカード | 高額の会計 | 為替の扱いは発行会社ごとに異なる |
| ウォンのプリペイドカード | 店頭での対面決済、交通 | 事前にチャージが必要 |
| 交通カード(T-money) | 地下鉄・バス | 買い物とは別枠で考える |
地下鉄やバスの使い方は韓国の地下鉄・T-moneyガイドに、デリバリーアプリの使い方は韓国のデリバリーアプリガイドにまとめています。
余ったウォンをどうするか
現金を多めに両替した場合、最終日に使い切れないウォンが残ります。残高の扱い方については余ったウォンの扱い方を、韓国から日本への送金については韓国から日本への送金FAQをご覧ください。
よくある質問
Q. 店頭で税額分が引かれなかったのはなぜ?
考えられるのは、1回の会計が15,000ウォンに届いていない、1回の取引額が100万ウォン以上になっている、入国後の累計が500万ウォンを超えている、のいずれかです。それぞれ施行規則第2条第1項、特例規定第6条第2項第1号・第2号が根拠です。
Q. 常備薬は日本から持参すべき?
飲み慣れた薬があるなら持参が無難です。韓国では医薬品の販売が薬局開設者に限られ(薬事法第44条第1項)、コンビニで買えるのは告示で指定された13品目だけです。自分が普段使っている銘柄がその13品目に入っている可能性は高くありません。
Q. 買ったものを現地で使い切ってもいい?
還付制度は、購入日から3か月以内に国外へ持ち出すことを条件にしています(特例規定第6条第1項第1号)。現地で消費する前提のものを還付対象にするのは制度の想定外です。
まとめ
韓国のドラッグストアは、化粧品と生活雑貨の店であり、薬の店ではありません。この一点を理解しておけば、滞在中に探し物で歩き回る時間がぐっと減ります。あとは、パスポートを携帯し、1回の会計を15,000ウォン以上・100万ウォン未満に収め、入国後の累計を500万ウォン以下に保つ。この3つの数字を覚えておくだけで十分です。
支払いをシンプルにする選択肢:moin card
買い物の現場で手間を減らしたい方には、ウォンを前もってチャージして使うプリペイドカード「moin card」という選択肢があります。チャージ手数料は0%。決済時はチャージしたウォンがそのまま引かれます(1万ウォンの支払いなら1万ウォンが差し引かれ、上乗せはありません)。使い残したウォンは日本の口座へ返金できます。
moin cardは、レジでの対面決済と、地下鉄・バスの交通(T-money)に使う店頭用カードです。ドラッグストアでの会計と、その行き帰りの移動を1枚でまかなう、という使い方になります。
2026年下半期の発行開始を予定しています。サービス内容や条件は今後変更される可能性があります。事前登録は下記から受け付けています。
この記事で確認した出典
- 外国人観光客等に対する付加価値税及び個別消費税特例規定 第6条・第8条・第10条の4(韓国法制処 国家法令情報センター/2026年10月30日確認)
- 同 施行規則 第2条第1項(韓国法制処 国家法令情報センター/2026年10月30日確認)
- 薬事法 第44条(韓国法制処 国家法令情報センター/2026年10月30日確認)
- 保健福祉部告示「安全常備医薬品指定に関する告示」別表(2026年10月30日確認)
- CJオリーブヤング 公式企業サイト 事業領域ページ(2026年10月30日確認)
- ダイソー(アソンダイソー)公式サイト「お客様との約束」ページ(2026年10月30日確認)
